理学療法士のハルです。今回は、「腰椎椎間板ヘルニアの検査・診断」についてみなさまに分かりやすく説明します。
この記事は2人のために書きました
以前のブログで、「腰椎椎間板ヘルニアの原因・分類・症状」について科学的根拠を基に話をさせて頂きました。
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今回はヘルニアの検査方法や診断について話をすすめていきます。
腰椎椎間板ヘルニアの検査・診断
ヘルニアにおいては重要な事は「ヘルニアがあるからといってすぐに手術!!」とはならない事です。
基本的に、ヘルニアがあってもまずは保存療法が選択されます。
様々な検査をして所見をとり、ヘルニアかどうかを判断ていくことになります。
身体所見①(体幹の前屈制限)
ヘルニアの場合には体が前に曲げにくくなる体幹前屈制限が強くでるとされています。
下の図のように体があまり前に曲がりにくい、曲げると腰や足に痛みが出る方は注意が必要です。
身体所見②(体幹伸展動作とkempテスト)
つぎに体幹伸展動作とkempテストと呼ばれるテストについてです。
kempテストとは体を後ろに反って捻るテストになります。
世間一般・医療界ではヘルニアは主に体を前に曲げる前屈動作で痛みが出現しやすいとされています。(先程は私もそのような話をしました)
そのため、ヘルニア患者さんの場合には体幹前屈は避け体幹伸展動作(体を反るような動作)を推奨することが多いです。
しかし、安易に背中を反ることが良いとは限りません。
脊柱管の広さがもともと狭い人がヘルニアになった事でさらに狭くなったり、椎間孔と呼ばれる神経の通り道に問題があったりする場合には、体を後ろに反るような動作をすると神経の通り道を狭くするので痛みが生じます。
この体幹伸展動作やkempテストで足にビリっと痛みが来る方は特に注意が必要です。
ヘルニアによって脊柱管が狭くなっていたり、椎間孔と呼ばれる場所でヘルニアの狭窄を受けている可能性があります。
「ヘルニアだから背中を反ってください」は安易な考え
身体所見③(神経学的異常所見の有無:筋力低下、感覚鈍麻、反射)
腰椎椎間板ヘルニアがどの場所で悪さをしているかによって
①どの筋肉が筋力低下を起こすのか
②体のどこの感覚が鈍くなったりしびれが出るのか
③どこの反射が弱くなるのか
これら3つがおおよそ分かります。
今回は代表的なL4、L5、S1神経根障害でどのような障害が起こるのかを1つずつみていきます。
「L4神経根障害」
〇筋力低下を起こす筋肉〇
大腿四頭筋(だいたいしとうきん):膝を伸ばす筋肉です。L4神経根に障害が出ると大腿四頭筋の麻痺が出現するため座った状態で膝を伸ばすのが困難になります。
〇感覚が鈍くなる場所・分からなくなる場所、しびれを感じる場所〇
L4神経根障害が起こると図に示している場所あたりの感覚が鈍くなったり、しびれを感じたりします。
〇反射の減弱〇
L4神経根障害が起こると膝にある膝蓋腱(しつがいけん)と呼ばれる腱を叩いた時に出る反射が出なくなります。
L4神経根障害は以上となります。次にL5神経根障害をみていきます。
「L5神経根障害」
〇筋力低下を起こす筋肉〇
長母趾伸筋(ちょうぼししんきん)・長趾伸筋(ちょうししんきん):親指やその他の指を上に持ち上げる筋肉です。L5神経根障害では、親指やその他の指を上に反らすことができなくなります。
〇感覚が鈍くなる場所・分からなくなる場所、しびれを感じる場所〇
L5神経根障害が起こると図に示している場所あたりの感覚が鈍くなったり、しびれを感じたりします。
〇反射の減弱〇
該当なし
L5神経根障害は以上となります。最後のS1神経根障害をみていきます。
「S1神経根障害」
〇筋力低下を起こす筋肉〇
下腿三頭筋(かたいさんとうきん):下腿三頭筋は腓腹筋(ひふくきん)とヒラメ筋という2つの筋肉を合わせた名前です。つま先立ちをするときに使用する筋肉です。S1神経根に障害が出ると下腿三頭筋の麻痺が出現するためつま先立ちが困難になります。
〇感覚が鈍くなる場所・分からなくなる場所、しびれを感じる場所〇
S1神経根障害が起こると図に示している場所あたりの感覚が鈍くなったり、しびれを感じたりします。
〇反射の減弱〇
S1神経根障害が起こると足首にあるアキレス腱を叩いた時に出る反射が出なくなります。
以上がS1神経根障害となります。
3つの神経根障害をまとめたものを一覧に表します。参考にされてみてください。
L4・L5・S1神経根障害 一覧表
神経根レベル | 筋力低下する筋肉 | 感覚鈍麻の部位 | 反射減弱 |
L4 | 大腿四頭筋、前脛骨筋 | 膝の前側、すねの内側 | 膝蓋腱(しつがいけん)反射 |
L5 | 長母趾伸筋、長趾伸筋 | 脛の外側~親ゆびにかけて | ─ |
S1 | 下腿三頭筋 | 脛の外側・ふくらはぎの外側~小指側 | アキレス腱反射 |
整形外科的テスト(FNSテスト、SLRテスト)
ヘルニアが起こっている場所によって行われるテストが変わります。
まずは「FNSテスト」からです。
L2/3ヘルニアであれば一般的にはL3の神経根障害、L3/4ヘルニアであればL4神経根が障害を受けます。ここでの障害を受けるとFNSテストは陽性となります。
大腿部の前面を走行する大腿神経はL3、L4が由来となります。大腿前面を走る大腿神経を伸ばすことでFNSテストは陽性となるのです。
次に「SLRテスト」です。
L4/5ヘルニアであればL5神経根障害、L5/S1ヘルニアであればS1神経根に障害を受けます。ここでの障害を受けるとSLRテストは陽性となります。
大腿部の後面を走行する坐骨神経はL5、S1が由来となります。ですので大腿後面を走る坐骨神経を伸ばすことでSLRテストは陽性となるのです。
画像診断(MRIを中心に)
腰椎椎間板ヘルニアが疑われた場合にはまず始めに行われる画像検査であるとされています。
MRIが困難な場合はCT検査が行われます。
神経根ブロック
ヘルニアが疑われる場合には、どの神経根が障害を受けているかによってブロック注射を打つ場所が変わります。
当たり前ですが、L4神経根障害であればL4に、L5神経根障害であればL5神経根に、S1神経根障害があればS1神経根障害に打ちます。
神経根障害が起こっている場所に注射を打ち、疼痛が軽減するかどうかでヘルニアによる障害部位を確定することが出来ます。
つまりブロック注射は治療であり、診断でもあると言えます。
ですが、ブロック注射を最初からすぐに打つというよりも様々な検査を行ってからヘルニアが疑われる場合にブロック注射を行うのが一般的です。
まとめ
今回は腰椎椎間板ヘルニアの原因、分類、症状、診断を話させて頂きました。
腰椎椎間板ヘルニアについては身体所見をしっかりとり、画像所見とあわせて判断していくことが大切になります。
今度もヘルニアのことにまだまだアップしていきます。
引用・参考文献
・岡村 良久、原田 征行 他:腰椎椎間板ヘルニアの保存的治療法とその適応
・大矢 卓、白土 修:腰椎椎間板ヘルニアの病態と治療
・腰痛診療ガイドライン2019
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